長野県の北西端から新潟県にまたがる、秋山郷。平家の落人伝説が残り、信州三大秘境と言われる程に山深く、その名にふさわしく紅葉が大変美しい場所ですが、そんな秋山郷の最も奥深いところに、切明(きりあけ)温泉があります。
切明温泉は、群馬県から流れてくる魚野川と、志賀高原から流れてくる雑魚川が合流して、中津川となるところにあります。そして、魚野川の少し上流に行くと、河原から温泉が自然湧出しています。
ここでは河原のあちこちから湯が湧いていて、ご覧の通り湯煙が上がっています。河原をスコップで頑張って掘れば、自作の天然露天風呂に浸かる事が出来ます。とはいえ一から自分で露天風呂を掘るのは大変な作業ですが、以前掘られた跡や、元々窪んだ場所もあるので、大概は容易に浸かれます。
なお、源泉温度が結構高く、そのまま湯に浸かるのは難しいので、川の水を引いて湯温を調節すると良いでしょう。川の水が流入するところのちょっとした石の積み加減で、あっという間に大きく温度が変わります。
自然そのものの露天風呂は最高です。湯自体も良いのですが、渓谷の風景とせせらぎの音も素晴らしい。さらに、時期が良ければ紅葉に囲まれます。あまりにも心地良かったため、筆者は2、3時間浸かってしまいました。ちなみに、温泉には若干の硫黄臭もあります。
こちらは夏の切明温泉です。湯煙の上がる様子がよく分かります。
これは過去に設置された人工的な湯船か、源泉を固定的に囲ったものだと思いますが、かなり時間が経過しているのか、温度と温泉成分で劣化が激しいのか、既に自然に同化しつつあります。ちなみにこの源泉は非常に熱いので、入浴はもちろん、足湯も危険です。温泉卵を作るにはいいかもしれません。
こちらは天然の湯溜まり。底から湯が湧き上がって、水紋が出来ています。
水が混じって温くなった場所では、おたまじゃくしも泳いでいました。温水プールのようで、快適な環境なのかもしれません。
しかし!ちょっと場所が変わると高温の場所もあります。この湯溜りでは、折角成体となったおたまじゃくしが、白い茹で蛙になって死んでいました。水棲動物はゆっくりとした水温の変化には反応しにくいらしいので、少しずつ熱い方へ向かっていって気付かないうちに死んでしまったのでしょう。快適なようで意外に過酷な自然環境なのかもしれません。
湯溜りの底から湯が湧き上がる様子と、おたまじゃくしが泳ぐ様子を、動画に収めてみました。
最後の方で、底から湧いてきた源泉の泡に驚いて、おたまじゃくしが逃げていきます。
河原の温泉は見ての通り自然そのものの為、脱衣所などの施設は何もなく、足湯はともかく全身入浴するには抵抗のある人も多いでしょうが、切明温泉には3軒の宿があり、日帰り入浴も可能です。河原の露天風呂に浸かった後、宿の食堂や売店で飲食する事もできます(切明には3軒の宿と発電所以外は何の施設も人家もありません)。河原を掘る為のスコップも貸してくれるようです。
さて、既に何度か書いたように、またいくつかの写真でも明らかなように、秋山郷は大変紅葉の美しいところです。色彩の美しさもさることながら、その範囲も広く、言葉を失ってしまう程です。特に、志賀高原から雑魚川林道を経て切明に出て、秋山郷を通り新潟県へ抜ける道は、時期が合えば何十kmにも渡って連続して紅葉を見る事が出来ます。
この写真と前の写真、そして冒頭の写真は、いずれも雑魚川林道で撮影したものです。草津温泉から白根山頂を経て志賀高原に至る志賀草津道路を加えると、荒涼とした地獄地帯や青白い火口湖までも楽しめる、究極のドライブコースになります。
紅葉が美しい場所だけに、シーズンにはツアー客も訪れますが、
河原の露天自体は混雑して入れないという事はまずありません。
また、秋以外には観光客もまばらで秋山郷全体も静かなものです。
ただし冬は要注意です。確かに雑魚川林道は閉鎖されるものの、
発電所がある為か新潟県側からは通年アクセス可能で、
「雄川閣」など冬期も営業している宿もあります。
しかし、国内屈指の豪雪地帯であり、あまりの積雪量で、周囲から孤立する事もしばしば。
21世紀なってからも、積雪による孤立の為、自衛隊による救援活動が行われた時があります。
また、秋山郷の最寄駅、飯山線の森宮野原駅は、JR駅の史上最高積雪記録を持っています。
もし冬に訪れる際には、事前に電話等で積雪状況や道路状況を確認しておくべきでしょう。
また、河原の露天風呂は、大雨や雪解けによる増水で入れない事もあります。
こちらも事前に確認しておいた方がいいかもしれません。
なお、秋山郷には、切明温泉以外にも数多くの魅力的な温泉があります。
これらに関しては、また別の機会に紹介したいと思います。
切明温泉
▼所在地:長野県下水内郡栄村切明
▼泉質:カルシウム・ナトリウム-塩化物・硫酸塩泉(弱アルカリ性低張性高温泉)
▼ph:7.6
▼泉温:55℃
▼湧出量:333リットル/分(自然湧出)
▼温泉の利用形態:源泉掛け流し
▼営業時間:24時間
▼休業日:無休
▼入浴料:無料
▼問い合わせ先:温泉保養センター 雄川閣 025-767-2252
http://www.vill.sakae.nagano.jp/skousya/yusenkaku.html
切明温泉の地図はこちら。
雑魚川林道はほとんど全面舗装されていますが、道幅が狭くガードレールがない場所もある上に、
紅葉シーズンには観光バスまで通るので、通行には注意が必要です。
また、新潟県側の国道405号も、雑魚川林道程ではありませんが、やはり道幅は狭いです。
また、ガソリンスタンドは秋山郷全体で一軒しかなく、距離の長い雑魚川林道には皆無です。
志賀高原から雑魚川林道を経て切明温泉に向かう場合、
国道292号から奥志賀へ向かう分岐点近くにあるスタンドが最終となりますので、
ここで確実に満タンにしておく事をお勧めします。
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