田代元湯温泉 雪中行軍が目指した湯も今は廃墟

 
八甲田山
田代平から八甲田山を望む

本州最北の県、青森県の中央部にそびえる火山群、八甲田山。山麓は温泉の宝庫ですが、そのうちの一つに、既に廃業してしまい、廃墟と化した一軒宿の温泉があります。今回はそんな秘湯中の秘湯ともいえる田代元湯温泉を紹介します。

田代元湯入口
目印の標識

田代元湯は、元々電気も電話も通っていなかった宿で、もちろん車道もありません。とはいえそれなりに近い場所まで、車で近付く事はできます。八甲田東麓を走る県道40号沿いを、十和田市方面から行く場合、湿原が広がる田代平(たしろたい)を過ぎた、森の中の右側に入口があります。かなり分かりにくいのですが、写真のような標識が目印です(標識自体も小さくて分かりにくいですが)。

ここで注意事項を書いておくと、、訪問したのは、既に五年も前(2004年)の事なので、
この標識が今でもあるかどうかは分かりません。
また、訪問したときには、当時転勤で八戸に住んでいた大学の後輩が車を運転していたので、
筆者自身もそこまで詳しいことは分かりませんし、さすがに記憶に残っていません。
もっとも、奥でダム工事が進んでいるようなので、
入口がもっと分かりやすくなっている可能性はあります。
確実なところでは、左側に「鳴沢第二露営地」という看板が出てきたら、既に通り過ぎています。
それにも気付かず、「銅像茶屋」まで行ってしまう事もあるかもしれませんが、
いずれにしても行き過ぎです。なお、当然ながら青森市方面から向かった場合は、逆になります。

田代元湯へ向かう林道
田代元湯へ向かう林道

さて、上の標識の入口から、写真のような未舗装の林道を進んでいきます。今はダム工事が進み、木もかなり伐採されて、道幅も広がったようですが、その分ダンプも結構通るようなので、走行には注意が必要です。林道を行き止まりまで行ったら、そこからは徒歩になります。

駐車スペースにある看板
駐車スペースにある看板

当時は、行き止まりの駐車スペースから、元湯へ向かう道の入口に、写真のような看板がありました。現在はどうか分かりませんし、駐車スペース自体はそのままではあるものの、「行き止まり」ではない模様です。ダム工事現場に向かう道の途中にはゲートがあるようですが、そこまで行っては行き過ぎのようです。

徒歩で田代元湯へ向かう
徒歩で田代元湯へ向かう

車を降りたら、こういった道を歩いて行きます。完全に登山道のような道ですが、大してアップダウンもないので、多少とも山歩きをした事がある人なら、どうという事はないでしょう。ただしあくまでも山の中なので、熊、蛇、蜂などの特有の危険はあります。

途中にあるパイプと板の橋
途中にあるパイプと板の橋

駐車スペースからの道のりは、徒歩で15~20分程度ですが、こうしたワイルドな橋などもあります。

吊り橋の向こうが田代元湯
吊り橋の向こうが田代元湯

いよいよ旅館の廃墟が見えてきました。最後にこんな吊り橋があります。元々危うい造りな上に、相当老朽化しているので、注意して渡らねばなりません。

田代元湯・旧やまだ館
田代元湯・旧やまだ館

ついに田代元湯に到着。ここはかつてやまだ館という旅館でした。温泉自体は江戸時代以前から知られており、明治時代には湯小屋が建てられましたが、1995年で廃業となりました。しかも、この写真の建物は、その後大雪で倒壊してしまったそうです。今では、上の吊り橋の写真に写っている建物だけが、辛うじて残っているとか。

田代元湯内湯
旧やまだ館の内湯

旧やまだ館の内湯です。これぞ湯治場という浴場。湯船には濃厚な青灰色の湯が満たされています。湯温は、この湯船が一番温かったと思います。残念ながら現在は、建物が倒壊してしまったために、内湯ではなくなってしまいました。

田代元湯の露天風呂
手入れされている露天風呂

こちらは露天。現在ではこの湯船がメインで、最も快適に入浴できます。柱に取り付けてある板にはかすれた字で「四分六分(しぶろくぶ)」と書いてありました。八甲田にある酸ヶ湯(すかゆ)温泉にあるのと同じ表示です。源泉の熱さを「十分」だとして、ほどほどに冷ましてある、というような意味で、確かに湯温はここが一番快適でした。

田代元湯の岩風呂
渓流を望む岩風呂

このような岩風呂もあります。ここはかなり熱めの湯だったような覚えがあります。昔はそれなりに整った旅館だったのでしょう。

怪しげな藻が繁茂する湯船
怪しげな藻が繁茂する湯船

これは吊り橋から一番近いところにある湯船で、元は内湯だったようです。怪しげな藻が繁茂しており入浴できません。

湯の色の異なる湯船
湯の色の異なる湯船

こちらも柱などが残っており、元は湯船だったのでしょうが、入浴不可能な状態になっています。また泉質が違うのか、底の土の色のせいなのか、湯はオレンジ色をしています。

これも湯船?
これも湯船?

河原にもこんな場所がありました。写真だけで記憶が定かでないので、何とも言えませんが、これは元々湯船ではないのかもしれません。湯船だとしたら、なかなかいいロケーションですが。

このように、廃業した旅館の温泉が、一部とはいえ快適に利用できるのは、
単に放置されているのではないからです。
地元のボランティアの方々が清掃されているからに他なりません。
一度でも利用した者として、この場を借りて感謝申し上げます。
また、それだけに常時入浴可能な状態に保たれている訳ではありませんが、
湯はこんこんと湧き続けており、清掃さえすれば入浴可能ですので、
入浴の方は、はじめから清掃するくらいのつもりで来られるべきかと思います
(1時間程度清掃すれば入浴可能になるようです)。

また、山中ゆえの危険があることは先に述べた通りですし、
途中の橋や施設もいつ崩壊するか分かりません。実際建物もほぼ全て倒壊してしまっています。
商業施設でも公共施設でもありませんので、
いかなる危険に遭おうとも自己責任である事を念頭に置いてご訪問、ご入浴下さい。
また全く明かりがない山中なので、夜間の入浴も危険です。

冬の県道40号
冬の県道40号

天候についても同様で、急流に架かる危うい橋を渡らねばなりませんので、荒天時は命取りになります。また、八甲田山は世界でも有数の豪雪地帯。県道40号の国道394号との交点~銅像茶屋までは通年通行可能ですが、ご覧の有様となり、それなりの運転技術を要します。八甲田山の冬は長く、入浴可能な時期は5月~11月くらいだと思います。

雪中行軍遭難の地
雪中行軍遭難の地(銅像茶屋付近)

何しろ八甲田山は、世界最多の遭難者を出した「八甲田雪中行軍遭難事件」の現場です。そして現在の県道40号は、ほぼその行軍ルートに重なり、初日の宿営地として目指していたのが、他ならぬ田代元湯だったのです。一行は田代元湯にはたどり着けず遭難しますが、混乱して散り散りになった隊の中、一人だけ生きて田代元湯にたどり着いた軍人(村松文哉伍長)もいました。

後藤房之助伍長の像
後藤房之助伍長の像

銅像茶屋付近に建つ、直立したまま仮死状態で発見された、後藤房之助伍長の像(銅像茶屋という名前はこの像に由来)。参加者210人のうち生存者11名というこの凄惨な事件は、新田次郎の小説「八甲田山 死の彷徨」や、それを映画化した「八甲田山」などの作品になっています。

ところで、先に田代元湯の近くでダム工事が行われていると書きましたが、
実は2018年頃にはそのダム(駒込ダム)が完成し、この湯も沈んでしまうそうです。
完成まで残り10年を切り、工事も本格的に進んでいるようですので、入浴したい方はお早めにどうぞ。
なお、近隣には、同様に廃墟と化した田代平温泉などもあります。

田代元湯温泉
▼所在地:青森県青森市駒込
▼泉質:含硫化水素芒硝泉(緩和低張性高温泉)
▼ph:不明(アルカリ性)
▼泉温:48℃
▼湧出量:不明(自然湧出?)
▼温泉の利用形態:源泉掛け流し
▼営業時間:24h
▼休業日:無休
▼入浴料:無料


田代元湯の地図はこちら。

大きな地図で見るLink

八甲田温泉郷 秘境 露天 野湯 濁り湯 24h 源泉掛け流し 硫黄泉 混浴 秘湯 硫酸塩泉


— posted by 温泉郷案内人 at 06:59 pm   commentComment [2]  pingTrackBack [0]

この記事に対するコメント・トラックバック [2件]

Up1. 匿名 — 2011/10/05@16:08:15

私も京都から日帰りで八甲田田代元湯まで!行こうと思い捜しましたが二回とも無理でした!必ずいきたいから!調べさせて貰いました?骨折が治り良くなれば又挑戦します?

2. n.tomita — 2013/03/05@09:27:31

新田次郎の「八甲田死の彷徨」を原作とした映画「八甲田山」の銅像茶屋へは何度も行っていますが、今年は例年にない豪雪で天候を見極めて今週末から再訪する予定です。
行軍が目指した田代元湯へは未だ行ったことがなく、非常に参考になりなした。
1月、2月はとてもじゃないが行く勇気がありませんが、3月に入り、まだまだ吹雪が続いている様で、積雪も記録更新している今年こそ行軍が見た地獄のほんの一部でも垣間見るチャンスと思い、行くことに致しました。
夏は、ねぶたとセットで是非田代元湯まで行こうと思います。ダム建設で歴史が風化する前には、死を直前に兵たちが思い描いた極楽の地が如何なるものなのか、体験して行こうと思います。

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